晩夏の歌
だいぶ主を見る目に歌仙フィルターが掛かっています。
あと、「霊力」にいろんな概念が混ざってます。
月の魔力、なのだろう。
特に、今宵は中秋の名月。夜空とともに、心も身体も晴れ渡っている。
その理由はただ一つ。僕が主の――十六夜の名を持つ審神者の刀であるからだ。名に引かれるのか、彼女の霊力が最も高まるのが十六夜月の夜。自然、僕ら刀剣男士も影響を受ける。今宵は中秋の名月。十五夜ということで、最高潮とまではいかないものの、彼女の霊力は充分に心地よく、さらに、年に一度、誰もが見上げるという信仰めいたものが加わった月は、この本丸の主と刀剣男士たち、そして本丸全体の霊力を底上げしている。
「十六夜月の君」と最初に呼んだのは、僕だ。年月が過ぎ、幼い少女だったあの子は、十六夜を名乗るようになった彼女は、今や月の力さえもその身に受ける強大な本丸の主となった。そう、僕が呼び、僕が名付けた。もとはただの番号だったものが、霊力にまで影響を与えるようになるだなんて、我ながら不思議な心地だね。
「十六夜月の君」
とりとめもない考えを巡らせながら、昇る満月を見上げて口をついたのは明日の月の名。それに呼応して思い出されるのは、彼女の姿。
呼ばれて振り向くときになびく艶やかな黒髪と、細い首。しなやかに伸びる手足。僕を見るきららかな瞳――考えているわけではないというのに、彼女の姿が脳裏に浮かび、そしてそれはいつまでも消えてくれない。
いつの間にか彼女を想い、捕われて、目が離せなくなってしまう。いつだって彼女を目で追ってしまう。そう、これはきっと月のせいだ。人を魅了し惑わすという、月の魔力のせい。
乾いた涼風が吹く。暑さの名残りを攫う風だ。
秋風はさわさわと葉を揺らして少しだけ雲を運び、束の間、月光を遮った。
――ああ、夏がゆく。