Die Blaue Nacht

せいぎとぎせいの間違い探し

名前がヤニクを討ったことについて考え込んでしまう話。

「どうして、あなたが」
 何度繰り返した問いだろう。
 本人にもぶつけた問いだった。
 どこで道を間違えたのか、間違えてなどいないのか、どの道もそこに収束するのか……それはもはやわからないし、考えてはならないと理解している。それでもこんな夜には――雨音しか聞こえないような冷たい夜には、どうしても思考が流されることもある。

* * *

「だからと言って、私があなたを討つ理由にはならないでしょう!」
 声を荒らげた名前の、閃光のようなグリーンの瞳が激しく瞬いた。
「……確かにこれは、私のエゴだな。しかし私とて一人の騎士だ。この国を憂う騎士の一人だと信じている。だからこそ、私に敗れるような者に後を任せる気はない。――それに、私自身の矜持もある。騎士長名前苗字を最も苦しめたのはヤニク・シャルダンだったと言われたいのさ」
 負ける気はない、と言って笑う貌はいつもと変わらず力強く優美だった。しかし、負ける気はないということは、名前が純粋に一騎打ちで勝つしかないということだった。そうしなければこの計画が成就しないことも、口に出しては言わないが二人とも理解している。
 
 時間は無慈悲だった。考える暇も、考え直す暇も、何も与えてはくれなかった。

* * *

 そして迎えたあの日。昼間だというのに暗く、冷たい雨が降る日だった。あの時の記憶は曖昧でありながら鮮明で、彼の頬を伝う雨粒の一つ一つを思い出すことができるのに、肝心なことは水の中にいるようにぼんやりとしている。
 そのくせ”あの”感触だけはいくら拭っても拭いきれないのだ。
 目を上げると、窓に映る明るいグリーンの目をした女が無表情にこちらを見返してくる。
 正義を貫いた女の冷たい顔だった。かと思えばガラスに流れる雨でみるみる歪んでいく顔でもある。ため息とともに目を逸らす。
 
「どうして、わたしは、あなたを……」
 暗い自室で独りごちたそれは、誰の耳にも届かないまま夜に溶けていった。