あがいた季節の果て
タイトルはこちらお借りしました→http://eternity.81650.xrie.biz/?guid=on
ヤニク亡き後の親友たち。
また、春が来た。
あがいて、あがいて、あがき続けた季節の果て。春とともに、君は君自身を何も残さずに逝ってしまった。
あれからもう3年が経つ。あれから僕の世界は反転したと言っていいほど変わってしまったのに、世界の方はといったら。何にも知らない顔をして巡り続けていくのだから始末が悪い。
ふいに、影が落ちた。
「やあ」
「なんだ、起きてたのか」
「寝てもいいけどね」
クロヴィスは答えずに、誰の名前も書かれていないその祈念碑にささやかな花束と瓶(多分、ビールだ)を供えると、僕の隣に少々乱暴な仕草で腰を下ろした。彼らしくもないやり方だ。
「ほら。お前も飲むだろう」
今し方供えたのと同じ瓶を2本取り出すと、栓を抜いて片方を渡してくれた。やっぱりビールだ。
「僕がビール好きじゃないの知ってる癖に。でもこれ、何かの思い出の品なんでしょう。だからありがたくいただくよ」
「そうだ、思い出の品だから飲んでおけ……乾杯」
「乾杯……って、何に乾杯すればいいのかな」
「そんなもの……、……内乱の終結と、新たなこの国に、に決まっているだろう」
「…………そうだね。内乱の終結と、僕らの新たな国に」
軽く瓶を祈念碑に向けて掲げ、ビールを喉に流し込んだ。やはり、苦くて好きじゃない。
「士官学校時代はよくこれを飲んでいた」
息を吐き出すように、低い声でクロヴィスは言った。ちらりと顔を見てみたけれど、単眼鏡越しの彼は恐ろしく無表情だった。
「あの頃はまだワインの味を知らなかったからな……安くて美味いビールばかり飲んでいたんだ」
「へえ。なんで僕にその話を?」
「――決まってるだろ、感傷だよ。まったく……そのくらいわかるようになれ」
呆れられている、のに、静かに笑っているのも感じられる。――感傷。ああそうか、感傷ってこういうこと。
「あの混乱の時代を乗り越えてこのブルワリーが生き残っていると知ったら……あいつも喜ぶ」
沈黙と、春風。”感傷”が、風に流れていく。その風に乗って、遠くの喧騒と花の香りが届く。
――これが、この世界。流れて、覆って、……元通り、なんて。
「お前のその自慢の記憶力で、ちゃんと覚えておいてやれ」
「そうだね」
世界がどれほど不変だとしても、僕だけはそのささやかな変化を覚えていよう。
……普遍の真理を追い求める僕が言うのもおかしな話だけど。ああ、もっと何かいろいろと考えていたはずなのに。思考が散らばってしまった。
きっと、珍しくビールなんて飲んだせいだ。