Die Blaue Nacht

体温の話

カイザーと夢主と体温の話ふたつ。
1つ目はネオエゴ前、二人とも18歳でカイザーもいろんなことに気づいてない、ただ支配的で共依存関係な時点。
2つ目はネオエゴ後、ちゃんと落ち着いてハッピーなエンドを迎えた後(??)。多分二人とも20代後半と。前提としてWanderkinder im Wunderlandの最後を踏まえたものになってます。

侵食する熱


「死んでるのか?」
 掴んだ手首が冷たい。いつもそうだった。
名前の体温は、いつでもカイザーよりも少し低い。
「そうかもね」
 特に何かの意図や感情を込めるでもなく、名前はただ肯定する。生きていると実感したいからこそ、彼女はここにいるのだから。

 両手で名前の腕や肩を押さえれば、当たり前だが両手が使えない。名前の言葉と呼吸すら奪いたくなって、自分の唇で相手のそれを塞いだ。キスなんてものではなく、奪うためのただの暴力だった。触れた唇も少し冷たい。それが、カイザーの体温をうつしていく。
 
 唇だけではない。相手の冷たい肌に触れて、ゆっくりと全身が温かくなっていく。名前侵食しているようで、カイザーはその感覚が気に入っている。
 冷たい箇所を探して触れて、自分の熱で侵食する。真っさらな女を自分のようなクソ物が侵している。自分のいるところまで引きずり落とし、同じものにしているのだと体感できるのだ。
 ついでに、名前が暖かくなっていくことで、自分の体が温かいことを自覚できるのも、気に入っている理由の一つではある。体温を分け合い、鼓動が重なり、そうしていくうちに境界が曖昧になる。
 
「あつい……」
 解放された名前が疲れて掠れた声で呟くのを、薔薇のタトゥーを纏った男は満足げに聞いていた。

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共有する熱


 シャワー直後には温まっていた肌も、ベッドに入る頃には少し彼より冷たくなっている。
 そこに一つずつ火を灯すように、熱を伝えていく。大人しく腕の中に収まった肌を撫でて足を絡めて、同じ熱を共有した。呼吸を分け合って命を吹き込むようなキスをして、暖かな闇に二人で溶けていく。

 不意に目が覚めて、反射的にスマホの画面を確認する。午前2時。一つ息をつき、そのまままた目を閉じようとして、すぐそばに柔い温もりがあったことを思い出した。
 眠った時には向かい合っていたはずが、気づけば自分に背を向けて眠る名前を後ろから抱き寄せて、肩甲骨のあたりに咲く小さな薔薇のタトゥーに口付ける。そのまま背中に唇を這わせて、覚醒しきらない頭で滑らかなその肌の感触を喰む。相変わらず、”相手の存在を感じている”。相変わらず、いくら繋がっても”ひとつ”にはなれなかったが、同じ熱を――同じ体温を分け合っていた。唇を寄せた肌は、抱き寄せる腕に触れる肌は、与え与えられたその熱と相まってとろりと柔らかい。
 ――と、抱き寄せていた体に意識が宿る。名前もさすがに薄らと目を覚ましたらしい。背中を向けているので見えはしないが、寝起きの名前がいつもそうであるように、ゆっくりと瞬きをして少しだけ身じろぎをし、周囲の状況を把握しながら全身に意識が行き渡るのを待っているのだろう。
「……なん、じ……」
「いい。そのまま寝てろ」
「ん……」
 答えているのかいないのか、どちらともとれる音を漏らしたかと思うと、名前が緩慢な動きで自分の腹のあたりを抱え込んで絡まるカイザーの腕を取った。そのまま手の甲を撫で、指を絡めて口元に持ってくると、温かい男の掌に控えめなキスを落とす。
「ミヒャエル……」
 呼びかけるでもなく、ただ男の名を眠そうに呟いて、名前は再び眠りに落ちていった。

 唇が触れた掌が、他よりも熱い気がする。きっと
名前も、自分の唇が触れた場所が他の場所よりも熱を帯びていると感じただろう。そうであればいい――そんなことを考えながら、カイザーは改めて
名前を抱き込んで密着し、目を閉じた。