ニコルが身バレする話
タイトルそのまま、うら若い女性騎士のとあるお仕事の日。
クロヴィスは、全然そんなことないのにいろんな人に「人の心がない」って言われてるタイプの人です。
「――君」
侍女として身支度を整えて陛下のお部屋に向かう途中、不意に呼び止められたので振り向いてみれば。
氷のように冷たい美貌を湛えたクロヴィス様がいた。
「は……はいっ!」
怖い。普通にとても怖い。整った顔での無表情はやめてほしい。本当に怖いです。
「君、侍女ではないだろう?」
「え……あの、私は……」
「出立ちはそうだが……護衛官か」
「……っ」
言い当てられ、咄嗟に口ごもってしまう。それを見てクロヴィス様は少し目を細めた。
あの、怒っているのかいないのかわからなくて、やっぱり怖いです。
「責めているのではないから、そんなに怖がらなくていい」
私が思ったことを見透かしたように、クロヴィス様は口角を上げる。ああ、怒っているんじゃないんだ、よかった。でも、ほんとに……怒っていないんですよね……?
「それにしても、もう少し態度や表情をうまく取り繕うことを覚えなさい。侍女ではないと指摘された時も、あんなに慌てていては怪しいだけだ。護衛官として護衛対象が守れるというのは最低条件だ。物理的な危機を回避するだけでなく、主に精神的にも負担をかけてはならない。何があっても慌てず、そつなくこなすことも重要だということはわかっているのだろう?――この点はおそらく、侍女たちの方が秀でているだろうが」
お説教――!というか、これって叱責じゃない?おそるおそるクロヴィス様を見るけれど、やっぱりこの方の表情は変わらない。……でも、あれ、もしかして、これ別に声怒ってる感じじゃないし、普通に教えていただいてるだけだったりする?
「侍従長に話をつけておこう」
えっ。
まって嘘でしょまじですか。いえありがたいと言えばありがたいんですけど。侍従長、厳しくてやっぱり怖いんです……
クロヴィス様は結局、表情も口調もほとんど変わらないまま、言うだけ言って立ち去ってしまった。……まあ私はクロヴィス様に口答えとかできるような身分じゃないし、そんな勇気もないから良いんですけどね。
あ、去り際に「呼び止めて悪かった、精進しなさい」って言われたのは、ちょっと嬉しかった、です。
――それから、侍従長から報告を受けたミリアム様による容赦のない侍女教育が始まった。ああ、嫌じゃないです、念のため。