凛くんを見下ろす話
凛くんと夢主の何でもない日常。
固定夢主前提ですが、固定感はあまりないです。
「つむじ」
名前が呟いた。その声は凛の少し上から降ってくる。
「あ?」
「凛ちゃんのつむじ見えるなーって。なんか気になっちゃった」
地下鉄の長い上りエスカレーター。一段開けて、二段上から振り返った名前が凛を見下ろしている。
「見下ろしてんじゃねえよ」
「いいじゃん、いつも見下ろしてるのは凛ちゃんなんだし。なんでだろね。今までもこんなことあったのに、これまで何にも思わなかったよ」
凛が顔を上げたので、もう彼のつむじは見えない。代わりに名前を見る二つのターコイズがあって、上から差す照明の光の具合なのか、それは名前がいつも見ているものよりも明るい。
「……ふふ、なんか、凛ちゃんに見上げられるのって不思議な気分」
「……前見ろよ、転ぶぞ」
不服そうに、あるいはくすぐったそうに目を逸らすと、凛は前を向けと顎で示してやった。
「はいはい」
そう言って軽やかに身を翻すと、名前は登りきったエスカレーターから歩き出す。少し遅れて凛もやってきて、当然のように名前の隣に陣取った。
いつも通り、凛が名前を見下ろす身長差だ。凛は、見慣れた名前の形の良い頭を眺めて、つむじ、ねぇ……と一瞬思ったが、それもポケットで震えたスマホに気を取られて、すぐに思考の外へ追いやられた。