Die Blaue Nacht

ジークフリートさんが夢主のところに転がり込んだ時の話

ヨゼフ王弑虐事件の後、絶望に塗れながら夢主の元に辿り着いたジークフリートさんの話。
愛ではあるけど恋ではない、良き理解者としての関係。

「大丈夫か?」
 客間の扉も開け放したまま、ジークフリートは暗い部屋のベッドに腰掛けていた。

「すまない」
「気にするな。……お前には、悼む時間も休む時間も必要だ」
 うなだれる茶色の髪を、無造作に引き寄せた。悲しむ仲間の肩に腕を回すように。あるいは泣いている小さな子どもを慰めるように。

* * *

 目が醒める前の、だんだんと意識が浮上する時間。
 輪郭を持ち始めた意識の隅で、今日はやたら暖かいな、と幸せな気分に浸——ろうとして、はっと名前は目を覚ました。そして目の前にある、金茶の髪。
 彼女らしくもなく、いや、むしろ朝に弱い彼女らしいとも言えるが、その光景を見て脳裏に大きなクエスチョンマークが浮かんだ。浮かんだ割に寝起きの頭は思考をしようとしないのだが。

 どうやらしっかりと抱き合って眠ったらしい。暖かいと思ったのは、この男がしがみついていたからだったのだ。
 ジークフリートは名前の鎖骨のあたりに顔を埋め、縋るように彼女の体を抱き竦めて眠っている。

 昨晩、全身に絶望を纏ったジークフリートの側に寄り添っていたのは覚えている。絶望が服を着て立っている、と言われても納得しそうな圧倒的な存在感と、それでいて吹けば飛んでしまうような儚さも同時にあって——要するに、彼はあまりに不安定だった。誰よりも敬愛し忠誠を誓った王を殺され、その罪を負わされた忠義の騎士は、それでもまだやらねばならぬことがあるからと、意志の力だけで名前の元を訪れたのだ。
 おそらく眠れてなどいなかっただろうし、ろくな食事も休息も取っていなかったようだ。話を聞けば聞くほど、ジークフリートほどの騎士をここで失わせてはならないという名前の思いは強くなった。

 どちらもあまり言葉を発しなかったのと、やたら優しい味になったミルク多めのココアとが相まって、そのまま眠ってしまったようだ。
 完全に友としての行為だったし、名前はこういう状況で目を覚ましたことに特に何かを思うわけでもなかったが、あの、疲れ切っているのに休もうとしない、危ういところでどうにか持ち堪えている様子だったジークフリートがぐっすりと眠れていることに安堵した。
 そう、昨晩も直接言ったが、ジークフリートには悼む時間も休む時間も足りていない。そんな時間を持つ間も無く国を追われてきたのだ。絶望に苛まれる心を抱いて、よくもここまで辿り着いたものだ。流石は竜殺しの騎士といったところだが、ジークフリートのその常人を遥かに超える肉体が、心も体も倒れることを許さなかったのだろう。

ずっとここにいろと言いたいわけではないし、時が解決する、などとは口が裂けても言えない。ただ、ジークフリートは得難い友だ。その友が少しでも日々を生きる力を取り戻してくれれば良いと、ただそう願う朝だった。