Nikki, SS

【企画】溢れる雫を宝石に

自分の企画「溢れる雫を宝石に」に自分で参加したもの。


心を遺して

あなたのことを想うたび、私の体は重くなって、あんなに軽かった身体も、もう飛べなくなってしまった。
胸も息も苦しくて、こんなにも重いのに——それでもこの想いはこんなにも愛おしい。

零れる。
あなたを想うと、涙が止まらないの。
溢れる。
行き場をなくした感情は、ぽろり、ぽろりと転げて光る。
——毀れる。
重くて石のようになった私の体。溢れる想いが内側から私を毀つ。

重くて膝をついたら、そこから体が割れてしまった。そこから覗くのはきらきらひかる想いの結晶。
あなたへの想いが募るほど、私は罅割れ欠けてゆく。
こうやって、想いだけが残るのね。

最期の涙は、きっと一番綺麗な宝石になるでしょう。
私だってわからなくてもいい。あなたの元に、届きますように——


春の来たる

この冬は暖かかった。
森は毎年のように雪と氷で閉ざされ、凍えるほどの寒さだったというのに、彼女に逢えるというだけで、私の心は春のように暖かかったのだ。

それは私にとっても彼女にとっても初めての感情だった。殆ど触れ合うことはなく、交わしたのは心だけ。それでも私たちは満たされていた。

森の奥の古木、幾度も逢瀬を重ねた場所に、彼女が現れなくなったのはいつからだろう。
遺されていたのは、光を受けて輝く宝石の破片。

彼女の瞳の色をした、済んだ宝石の欠片だった。

私に出会わなければ、あなたは今も、あの美しい翅で舞っていたのだろうか。
あなたに出会わなければ、私は今も、こんな悲哀を知らずに過ごせていたのだろうか。

この冬最後の雪は、積もらず溶けて消えるだろう。
春はもうすぐそこまで来ている。
あなたを喪ったというのに、世界は変わらず芽吹いていくのだ——


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