光を知らない。色を知らない。
でも、セレーネさんに出会った時、確かに私の世界は色を帯び、光に満ちた。
ここに来る前のことは、もう彼方に”色褪せて”しまっていて、ほとんど思い出せなくなってしまったけれど、私はそれでいい。この博物館で、ずっと、セレーネさんやルイさん、アシュリーさんにミヒャエル、そしてこの素晴らしき美術品と一緒に居られることが私の幸せなのだ。
生まれた時から光を知らない私は、だけど他の感覚は人並みはずれていたそうで。視覚の代わりに聴覚、触覚、嗅覚なんかを使えばできないことなどなかった。庭師だった父について回り、ほんの子どもながらその技術を吸収した。
だけど別れは唐突で。父と母は、私をおいて逝ってしまった。
『君の才能を借りたい。君にしかできないことがある。』
そんな時、そう声をかけてくれたのがセレーネさん。
両親は死別し、保護者もいない。そんな私がセレーネさんの申し出を断るはずもなく。
そうして私は、この博物館の一員になった。
今の私の仕事は、博物館の中庭の世話をすること。”色とりどりの”花たちを世話し、最も美しく見せること。私に色はわからないけれど、咲き乱れる花々が色に溢れていることは全身の感覚が教えてくれる。
それから、もう一つ。
「見るべきではない」作品の手入れをすること。『メデューサの瞳』や、あの美しい魔女の婚礼の絵……ここには、目で見るべきではない作品もたくさん置かれている。そういう作品の手入れをするのも私の仕事。私にしか、できない仕事。
私の存在意義は、ここにある。
学芸員 ルーチェ
盲目の少女。「メデューサの瞳」や「魔女の婚礼」など目にすべきではない作品を担当。庭師でもある。