存外、力を求めていたのだなと思った。
斬るために。勝つために。存在するために――僕らは力を求めている。刀なのだから当然だ。
そう思い過ごすうち、なぜ、斬るのか。なぜ、勝つのか。なぜ、存在せねばならぬのか。それを考えるようになった。考えても答えは出ず、書くことで思考をまとめようと日記を始めたのだった。
――考えるということは「雅を解する」ことでもあると知ったのはかなり後になってからだったか。
日記をつけ始めて幾年も過ぎた頃には、始めた理由すら忘れてしまっていた。彼女と、彼女たちと過ごす日々そのものが存在理由になったから。
ふと気にかかり、これまでに書き綴った日記を見返してみる。
当時何があり、何を思ったか。事実と感想が綴られているだけのはずの日記は、今になって読み返してみれば自分でも驚くことに「力が欲しい」に集約されている。
どうやら、自分の言う「力」というものが、この身を得てすぐに自覚したものよりも広い意味を持つようになったようだ。……確かにその変化の自覚はあるが、改めて突き付けられた。
それでも、自分の大切な人を、大切な人が大切に思っているものを守るだけの力が欲しいという思いだけは一貫している。重ねられた日記帳をいくつかめくってみたところで、溢れていたのはそればかりだ。
日々を記録し、考えを……心を整えるために始めた日記だった。
――なんとまあ、簡潔に整理できてしまっているじゃないか。
そこまでとりとめもなく考えたところで、ぽつりと浮かんだ問いがある――あの方々は、どんな思いを抱えて生きていたのだろうか。
僕がただの物であり、考えることなど知りもしなかったあの頃の、主たち。今の僕が彼らに相見えることがあるなら、僕は何を感じるのだろう。
訪うには些か遅い時間だった。彼女はまだ眠ってはいないだろうが、行けば少し驚くかもしれない。
しかし思い立ってしまった。もしかしたら、明日、明後日、その先に、もっと良い機会があるのかもしれない。だから、きっと、今なのだ。
そう思うと止まれなかった。ここで止まってはいけないと思った。
ひとつ、息を吐いて立ち上がる。
自室の戸を開けるとまとわりつく初夏のぬるい風。それを吸い込み、体の奥に生まれた熱を和らげる。少しの逡巡は部屋に閉じ込めた。
見上げる先には彼女の私室の明かりが灯っていた。
「ねえきみ。僕の話を聞いてくれないか」
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