時系列としては、アズカバンに送られて少しして、錯乱状態とも言えるところから落ち着いたあたり。理性と狂気の間でもある感じ。
シリウスが愛の戦士みたいになった。
人の言う「愛」というものが、これほど暖かい感情だったなんて。
あいつは——ジェームズは、こちらも拒んだわけではないのだが、遠慮もなく僕の内側に入り込んできた。それまで一人だった、一人きりで守り続けてきた僕の内側に。
魂が惹き合うとは、ジェームズとの関係のことを言うのだろう。意気投合などという言葉では足りない。まさに僕らの魂は二つで一つ、双子と言ってもいい。そんなジェームズを僕の心が拒むはずはなく、僕は自分が一人ではないことを知った。
次にいつの間にか僕の内側にいて、穏やかに微笑んでいたのはリーマスだった。彼の背負うものを知ったとき、なぜ彼はこんなにも穏やかに笑えるのだろうと思ったものだ。リーマスに聞いてみても、彼はただ、一緒にいられるのが幸せだからだよ、と微笑みを絶やさず言った。そんな彼の優しさで、僕は優しさを知った。
僕を人として成長させたのは、ピーターだった。リーマスと同じくいつの間にかそばにいて、あまりに心地好さそうに僕の内側に小さく丸まっているものだから、僕もそれを見ているのが心地よくなって、そして当たり前になった。それは、自分には守りたい人がいるのだと知ることでもあった。
窮屈になる?とんでもない。むしろ逆だった。彼らを、自分ではないものを自分の中に受け入れることで、僕は僕として生きられるようになったのだから。
僕の内側は賑やかになっていった。あの3人だけじゃない。あの3人が呼び水となったようで、僕は大切な人を僕の内側に受け入れるようになった。
それを「愛」というのだと気付いたのは、いつの頃だったろうか。
全身で僕に笑いかける幼子と、それを見て幸せそうに相好を崩した親友夫婦を見ながら、そんなことを考えていた。
——そしてあの日僕は、僕を僕たらしめるものを全て失った。
そうして私に残ったものは、空虚。そして絶望。
私を満たすものは、もはやどこにもなくなってしまった。彼らに出会う前は、自分の内側を満たすのは私自身だけだったはずなのに。一度大きく育ってしまった器は、もう元の矮小なあの頃になど戻りようがないのだ。
冷たく暗い絶望の中で虚無に沈もうとしていたとき、何かが指先に触れた気がした。もはや自分のかたちすら分からなくなりかけていた私の指先に。
その、ひどく暖かい何かは、私がそれに気づいたのを感じ取ったのか、私の指をふわりと握った。
それはとても小さな、あの幼子の——ハリーの手だった。
そうだ、まだこの子がいる。
私は、私を満たしてくれた彼らのためにも、この子を守っていかなければならない。
そう思ったとき、スイッチが切り替わったかのように全ての感覚が戻ってきた。
吹きすさぶ冷たい風、そしてその風の冷たさとはまた別の、底冷えのする恐怖の塊。大量の吸魂鬼だ。彼らは絶望を撒き散らしながら、すぐ近くを舞っているのだ。
私はアズカバンに収監された。それは覚えているが、あのハロウィンの夜からのことはまだあまり整理ができていない。
しかし、私を現実に引き戻したあのたった一つの思いだけは、炎のように私を焼き焦がしている。
私が守る。全ての敵から、私が守るのだ。
そして、彼らが与えてくれたものを、私があの子に与えてやりたい。
ああ、ハリーは無事だろうか。
「愛」というものが、これほどたくさんの感情を生むものだったなんて。
例えば、悲しみ。
例えば、悔恨。
例えば、怒り。
これらの感情が、今の私を私たらしめる唯一の依り代であり、原動力だ。
私は彼らが満たしてくれたものを失ってなどいなかったのだ。