フォロワーさんに、お題と自分のところの夢CPを指定してもらい、それでSSを書くという遊びをやっています。その一つです。今回のお題は「お食事シーン」でした。
ジークフリートさんが夢主のいる国を訪れた先で、夢主と一緒に事件を解決したよ、みたいなシチュエーション。
暖炉の薪がはぜる音、厨房のざわめき、さざなみのような他の客たちの声とカトラリーやグラスの触れる音。極寒の屋外とは違い、店の中は暖かさで満たされており、少し暗めの照明が心地よさを上乗せしている。高級レストランとまではいかないまでも、いつもより少しだけ豪華な夕食だった。
メインはシチュー。よく煮込まれた野菜と、赤ワインの旨味が詰まったシチューには、これもまたよく煮込まれて、ほどけるような柔らかさになった牛の頬肉。柔らかすぎて、ナイフで切るのにもフォークで運ぶのにも苦労するほどだ。
少しだけ、上品さを損なわない程度に少しだけ苦労しながら、名前は頬肉をほおばった。ほろりと崩れて、旨味だけが残る。思わずほぅ……と幸せそうにため息をついたところで、向かいに座る男の手元が目に入った。
「どうした?」
何とはなしに眺めていると、視線に気づいたジークフリートが目を上げた。
「ん?あ、いえ……ちょっと意外だな、って」
「意外?」
ジークフリートは先を促すように、口に運ぼうとしていたフォークを戻す。
「別に、大した話じゃないわよ。ただあなたって野営……というかサバイバルばっかりしてるイメージあるから。お上品な食べ方するんだなあって」
「上品……そうか?」
「そ、上品。ナイフとかフォークとか、ほとんど音もしないし、動きも……なんていうの?洗練されてるっていうか」
「ああ……一応俺も、城で暮らしていた時期があるからな。最低限のことは教えてもらった」
「あー、なんだか要人対応というか、そういうの慣れてる感じがしたけどそういうこと?」
「それもある……か」
そこまで言って、楽しそうに続きを期待する名前に気付くと、ジークフリートは苦笑しながら話を続けた。
朝から晩まで城で過ごすということ。騎士団の訓練や演習のこと。訓練で汚れた格好のまま城を歩き回っていたら、見ず知らずの女官にこっぴどく叱られたこと。そして――
「俺が知ってるのは――このくらいだ。……今の城のことは、俺もあまり詳しくはないからな」
やや唐突に、ジークフリートは言葉を切った。
怪訝に思った名前が、飲んでいたグラスを置いてジークフリートに目をやると、彼は肉の切れ端を口に放り込むところだった。
ああ、やってしまった。不意に名前は気付いた。
「ごめんなさい」
思い出を思い出にしきれていない人に、それを語らせてしまったと、名前は小さく謝罪した。
「何がだ?」
――わかってるくせに。
帰ってきた返事に対しつい出そうになった言葉を、名前はシチューと一緒に飲み込んだ。少しだけぬるくなったシチューだが、濃厚なうまみは健在だった。変わらないシチューの味に、少しだけ変わった空気が際立ってしまう。
そんな顔をするくせに、はぐらかさないでほしい。
それを悟らせるくらいの仲になったのだと、ジークフリートだってそう思っているからこそだろうに、中途半端に追い出さないでほしい。名前は相手に気付かれない程度にそっとため息をついた。
ここのところ一緒に過ごしてきて、わかったことがある。
周りが見えて、(ずれていることもあるが)気遣いもできて、初対面では怖がられることもあるし口数が多いわけでもないが、打ち解けてみれば優しいし、頼りになる。
だからこそ気付く。
不意に見せる獣のような雰囲気に。深淵を除くようなまなざしに。そして、決して人を立ち入らせない確かな一線を引いていることに。
あれだけ街を駆けずり回って、危険にも遭遇して、それを一緒に解決してきたのだから、確かに絆と呼べるようなものが生まれている。少なくとも名前はそう思っている。実際、出会ったころに比べれば、ジークフリートとの関係はこの上もないほどに良好になっていると言える。だからこそ気付いたし、だからこそもやもやが大きくなる。
全幅の信頼が欲しいとまでは言えないが、なんでもない顔で、気付かないふりをされるのも癪だった。
デザートは上品なオペラ。チョコレートはなめらかで、コーヒーの香りも鮮やかだ。濃厚だけれど甘すぎないから、肉料理の後でも飽きずに食べられた。
ビターチョコとコーヒーの苦味が、やたら優しかったのが印象的だった。