誇魔さま(@oSQUAA3p2d2IFj2)の企画「人工天使計画」に参加したものです。
【成功】フェリシティ
「智天使……!」
クレアは思わず叫んだ。
培養槽から姿を現したのは、紛れもない4枚羽を持った天使。こんなに高位の天使を作り出せたとあっては、叫ばない方がおかしい。
人柱となった少女は、世界を慈悲で包みたいと言っていた。海のように深い愛がいい、と。
なるほど、生まれた天使は水をそのまま衣にしたような衣服を纏っている。耳の奥で波の音すら聞こえたような気がするほどだ。
カシャン、とどこかでガラスが割れる音がした。直後、禍々しい空気が流れ込む。ああ、あちらは失敗したらしい。
すると天使の視線が動いた。視線の先には、失敗作。天使になり損なった何かが瘴気をばらまいている。
つう、と、水が流れるような動作で天使が腕を上げる。掌を失敗作に向け、握るように動かして——パシャ、というなんとも軽い音とともに、失敗作が水に還った。水はそのまま流れ動き、クレアの目の前に浮かぶ天使の衣の一部となった。
瘴気ごと、存在を消し去ってしまった。
強大な、強大すぎる力を目の当たりにして、クレアは総毛立つ。
彼女は、海だ。全ての母であり、全てを飲み込む海。
「慈悲深い」眼差しがクレアをひたと見据える。その感情は読めない。いや、そもそも人ではないのだ、感情があるのかどうかもわからない。あったとして、それは人の理解の及ぶものなのだろうか。
願わくば、「彼女」の思う慈悲と、我々人間が思う慈悲とが同じでありますように—— 彼女らしくもなく、クレアは神に——天使よりも高位の存在であるはずのものに祈った。祈ることしか、できなかった。
【失敗】エンジェル
「あなたは私たちの天使」
両親にはずっと、そう言われてきた。遅く授かった子だからと、私にエンジェル、と名を付けた。
それが、いつからだろう。パパとママは、私をみんなの天使にしたがるようになったのは。
そんな2人が人工天使計画、というのを聞きつけてくるのは当然だった。私は嫌だって言ったのに。私はパパとママだけの天使でいられたらそれでよかったのに。
パパもママも、聞いてはくれなかった。
「本物の天使になれるのよ!」
だって。私、本物じゃなかったみたい。
器械につながれて、変な味のする薬も飲んだ。
もう声は出ない。多分、出せないようにされたんだと思う。だって天使になるための「試験」、痛いんだもの。
昨日も痛かった。今日はもっと痛かった。明日はもっと痛いんだろうな。
痛い、痛いよ。パパ、ママ、痛いの。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛——憎い
私の名前はエンジェル。
この恨み、どうやったら晴らせるかなあ?