Marquees Magpie
さあ、行こうか。私の鵲に付いておいで。ああ、私をただのふらふら遊んでいる貴族の道楽息子だと思っていたのかい、まあそう見えているならそれでいいさ。
Marchioness Magpie
まあ、弟は馬車もご用意しませんでしたの?それは失礼をいたしました……よろしければ、わたくしの馬車で一緒に参りませんか。
災厄の日
鵲が群れをなして飛んだ。
隠せ、隠せ。子らを隠せ。
今夜は誰も外へ出るな。
森から災厄がやって来る。
森から這い出るソレは、うら若き乙女の姿をした化け物だ。
左手にて光を放つは真紅。
――獲物の顔を確かめる洋燈。
右手にて光を映すは月白。
――獲物の命を攫いとる大鎌。
灯を消せ。
見つからぬよう、息を殺して暁を待て。
我らにできるのはそれだけだ。
ダークエルフ
昼を夜に。
光を闇に。
凄絶な美を誇る、彼女は夜の番人。
生を死に。
全を悪に。
濃厚な死を纏う、彼女は刃の番人。
美しい氷の花を見たら気をつけなさい。
それは彼女の徴。彼女の司る処刑場の扉が開く場所。
何人も、彼女から逃れられはしない。
恐怖に震え、絶望に沈みながら、今夜も不運な贄が扉へと引きずり込まれてゆく。
送り火
ありがとう。今年も帰ってこさせてくれて。お祭り、一緒に行けて楽しかったよ。
ありがとう。道に迷わないよう、こんなにたくさん灯をともしてくれて。また来年、帰ってくるからね。
さようなら、元気でいてね。
あの人は、ここにいれば安全だから、と私を閉じ込めて行ってしまった。この美しさしかない静寂の場所に。
——貴方と一緒なら、どんな場所でも辛くなんてなかったのに。
君はきっと、閉じ込めたことを怒るだろう。君はそういう人だ。
戻ったらいくらでも怒られよう。
ただ僕は、どんなことをしてでも君にこんな光景を見せたくなかったんだ。
夜の舞姫
しゃら、とかすかな鈴の音がした。
一瞬ざわめきが起こり、しかし店内はすぐに水を打ったように静まり返る。
しゃらん
少し近づいた鈴の音に耳を澄ます。
もしかして、彼女なのだろうか?
ー・ー・ー・ー・ー
街の奥、喧騒を抜けた先にその店はある。
どうということのない、どちらかというと古びて胡散臭い部類に入るような店だ。
外から見ただけではわからないが、店の中庭には静かな池と古い古い橋があって——
夜にだけ、舞姫が現れる。
彼女は気まぐれに現れて橋の上を舞う。来るたびに彼女の舞姿を見られる人もいれば、何度訪れてもその気まぐれに当たらない人もいる。
その、彼女が。
月の光から浮き上がるように、鈴の音を纏って現れた。
しゃらん、彼女が身につけた鈴が歌う。
顔を隠した扇の隙間から、かすかに微笑む唇が覗く。
それだけで恐ろしいほどの美しさだ。
しゃらん、彼女のヴェールがふわりと広がる。
とんでもなく優雅に、彼女は扇を翻す。
瞬間、僕は彼女に心を奪われた。
宝石のように、月光を受けて煌めく真紅の瞳が、僕を見つめて少し細められる。
この上もなく美しい唇が、く、と弧を描く。
時間がとろりと揺蕩って、全ての瞬間がスローモーションのように見えた。
彼女の銀色の髪が彼女の動きに合わせて散らばり、細く美しい指が池の水面をつう、と撫ぜ。
その全てを、僕は恍惚として見つめていた。
魔女といえども、時代の流れには逆らえないさ。だがなに、電子演算というのも慣れてみれば便利なものよな?
魂の双子
光は甘美な闇にどうしようもなく魅せられ
闇は高貴な光にどうしようもなく焦がれる
わたしたちは魂の双子。
魂で惹かれ合うわたしたちを、誰が分かつことなどできようか?
花屋敷の秘密
生垣の隙間をなんとかくぐり抜け、ようやく仔羊を捕まえた少女は息を飲んだ。ここはあの花屋敷だ。魔女が棲むと言われるあの屋敷。
と、窓が開いたかと思うと、そこから顔が覗き——少女と目が合った。
美しい人だった。陽の光のようなの髪、冬の晴空のような瞳、そして、大きな翼。
「天使さま……?」
思わず見惚れた少女は、知らず知らずに呟いていた。
天使は微笑むと、他の人には内緒だよ、と言うように唇に指をあてた。
✳︎✳︎✳︎
夢見心地で牧場に戻った少女は、仔羊の首輪に何か挟まっているのに気づいた。
キラキラと光る、それはあの羽根だった。
ボンボニエールに夢を詰めて!
さあ!どれでも好きなのを食べて頂戴。
ここにあるのは夢のキャンディ。
食べたキャンディの夢を見られるの。素敵でしょ?
馬の形?夢の中ではロビンソン・クルーソーになれるかも!
あなたが選ぶのは薔薇の花びら?素敵な恋のヒロインを楽しんで。
鳥になって空を舞うのも楽しいわ。
同じ空を舞う夢でも、蝶ならもっと優雅かも。
星型を食べたら、目覚めたあなたは元気一杯。
あら、宝石のキャンディが気になるの?
これはとっておき、あなたの望む夢を見せてくれるわ。
あなたの夢はあなたの秘密。
夢では自由になっていいの!
【企画参加】それでも貴方に会いたい
みるくさま(@ilovedogs_xxx )の企画「それでも貴方に会いたい」に参加させていただいたもの。
歩いて、歩いて。時を超え幾星霜、歩き続けて。
荊に引き裂かれようと、誰も私を覚えていなくても、貴方に会う、ただそれだけのために私は歩き続ける——
箱庭
外の世界は怖いから。
——私は私の世界があればいい。
誰何
さあ、あなたのお名前は?
名簿にあれば通って良し。
名簿に無ければ、残念だけど、徳を積んだらまた来てね。
【企画参加】闇に染まる物語
アリアさま( @yur_305 )の企画「闇に染まる物語」に参加させていただいたもの。
ヴェールの下は女の素顔。
貴方以外には見せられないわ。
私の全てを受け入れられる、
特別な貴方以外には
決して、誰にも見せないの。
嵐の夜には、美しい人に化けた妖が出るっておばあちゃんが言ってた。眼鏡でもガラスの破片でも何でもいいから、それを通して見れば本当に人かどうかわかるらしいけど…どういうことだろう?
あーあ、たーいーくーつー!
あっ、でもだんだんあったかくなってきたね。さっきちょっと寒かったから街燃やしてきちゃった!
無自覚の恋
町外れにすごく綺麗な庭のあるお屋敷で最近見かけるあのメイドさんのことが頭から離れない。この辺りでは見ない顔立ち、真っ黒で艶やかな髪。きっと異国から来たんだろう。どんな風に笑うんだろう?あの細い指に触れられたら、どんなに幸せだろうか——
愛しき骸 1.焦がれて果つる
ああ、ああ、ああ——やっと巡り逢えた!
私の愛しい人、もう決して離れない。
私の愛しいあなた、もう決して離さない。
わたしのあなた——
愛しき骸 2.柔らかな檻
何不自由なく、何の苦痛もなく、ここにいれば、永劫貴方は満たされる、そうでしょう?
さあ、私と一緒に、時の終わりまで——
愛しき骸 3.旅は道連れ
またお前に会えるなんて。
お前のいない旅は退屈でたまらなかったんだ。
ありがとう、また私を見つけてくれて。
さあ、世界を征こう。お前となら、きっとまた楽しい旅になる。お前と私の2人なら、できないことなどないはずだ。
愛しき骸 4.ここで遭ったが百年目
やっと来たか。待ちくたびれたぞ。
酒もある。貴様と死合うて百余年、貴様と語り合う日を待ち望んでいた。
そう睨むな、まだあの時のことが悔しいか?私が貴様に止めを刺した、あの時が。
たとえ我が身は闇に堕ち果てようと。
我が愛しき記憶は何人にも穢されぬ。
善なるわたしの、キタナイ心。
不要なものだとわかっているのに、捨て切れなかったわたしの心。
鍵をかけて閉じ込めて、わたしの奥に眠らせておくわ。
旅立ちは残酷で。
籠の中は暖かくて、甘くて、幸せ。それでもいつかはここから出なきゃいけないって、わかってはいたの。
だけど、まだ飛び方も知らないのに——
「だぁめ、見せてあーげない!」
くすり、少女は嗤う。
にっこりと笑みを作った顔の中、その瞳だけは冷たくて。
「それともなぁに?そんなにこの箱の中身が気になるの?」
鍵なんてかけたって無駄さ。”アレ”は夜になると、猫のようにいつの間にかするりと入り込んでいるんだ。
まあ、害があるわけじゃないんだが……いかんせん、家に得体の知れないものが入り込んでくるっていうのは少し不気味だよな。
たとえどんなに美しい世界でも、貴方がいないのなら意味なんてない。堕ちる先は、光という名の地獄。
この光り輝く世界で貴方を喪ったまま生きていくことが、私の罰。
悲しみも醜さも全部全部隠して、貴方に見せるのは一番きれいな私。
あの日切り捨てた、あの人の心のいちばん綺麗で柔らかな欠片。 静かに微睡みながら、全てが終わる時を夢に見て——
永い微睡みは暖かくて、明るくて。終わることなく繰り返す美しい思い出に憩うのは、あの日置き捨てた最後の光。
弔花
もうここに誰が眠っているのかなんて、誰も覚えていないし、私も知らないけれど。昔むかし、悲しいことがあったんだって聞いたから。お花を手向けるのは、良いことなんでしょう?
湖面
忘るるなかれ。
我らの物語が数多の屍の上に成り立っているということを。