『王子様とお姫様は末長く幸せに暮らしました』
お伽話は、そこでお終い。
だけど彼らが生きている限り、物語は続くのです。
今日語るのは、そんなお話。
✳︎✳︎✳︎
人間の王子様と、人魚のお姫様が結ばれると、地上の国にも海の国にも平和で穏やかな時代がやってきました。
地上の生き物たちは海の生き物たちを、海の生き物たちは地上の生き物たちを、互いに尊重しあい祝福し合う日々でした。
その中心にいたのが、王子様と人魚姫でした。
ふたりの幸せそうな様子といったら!どんな宝石も、どんな星空もかなわないほどです。
でも、王子様はある時気が付きました。
自分はだんだん年を取っていくのに、最愛の妻は出会った時から全くその容姿が変わらないのです。
それは考えてみれば当たり前のことでした。
人魚というのは妖精の一族。大人になると、その命の終わりまで姿が変わらないのです。そして、妖精の中でも人魚というのは得てして人間より長命でした。
王子様——今はもう、王様でした——は言いました。
「誰よりも愛おしい貴女を置いて逝く私を許しておくれ」
人魚姫——今はもう、お妃様でした——は言いました。
「誰よりも愛おしい貴方とともに月日を歩めない私をお許しください」
ある星の美しい晩、ふたりが手に手を取って涙を流した時、どこからともなく冷たく澄んだ風が吹きこんできました。
そちらに目を向けてみると、中庭に吹雪を纏った魔法使いが立っています。
魔法使いはふたりが泣くわけを聞くと、ふたりにこれからもずっと一緒に居たいのかと尋ねました。
「私は、あなたがたがずっと一緒に居られる方法を知っています。人が生きるより長く、人魚が生きるよりもっと長く。誰もあなたがたを覚えていない、そんな永劫の時を、互いだけを支えに存在し続ける。そういう方法です。王と妃という地位も、人や人魚という枠組みも、全て捨て去ってしまうということです。それでも、望みますか。」
王様とお妃様は、しばらく見つめあった後、どちらからとなく微笑んで、深く頷きました。
✳︎✳︎✳︎
栄えた国があったのでしょう。
お城があったと思しき場所は、今や植物の王国となっています。
その中にぽつんとひとつ、美しい像がありました。
気の遠くなるような年月、この場所で風雨にさらされてきたはずなのに、像はまるで今しがた出来上がったかのように美しいのです。
あの日、魔法使いはふたりをこの像に変えました。お妃様の姿を残したいと言ったのは王様です。海の底で生きられない自分のために地上で生きることを選んでくれた最愛の妻の美を永遠のものにしたい、自分はそれを守り、繋ぎ止めるための楔になりたいのだと。
そうして王様は、この世とお妃様をつなぐ楔——尾びれでは立っていられないお妃様を揺るぎなく支える台座となりました。
こうして世に二つとない人魚像ができあがりました。像と台座は決して分けられず、ふたりは永遠にひとつになりました。
人魚像の顔は、いつも優しい微笑みをたたえています。見る人によって表情が変わるという人もいます。
もしかしたら、王様とお妃様がお話をしているのかもしれません。